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(一)火の由来──ジェームズ・ボールドイン著・杉谷虎藏訳「ギリシャ神話[新版]」(2011年7月11日)
プロミシューズは下界へ降り、人間の様子を調べた。サターン国王の黄金時代の姿は影さえなく、痛ましく思う気持ちが募ったからである。人間は虫けらのように地中の穴に身を隠し、火の気がないため寒さに慄え、食べ物がないために飢えて死んでいく。そこまでいかなくても、野獣や他の人間に襲撃され、一刻も安心できないでいた。人間は動物の中で最も憐れむべきものになっていた。
プロミシューズは「ああ、せめて火だけでも持たせたら、彼等はからだを暖め、食べ物を焼くことができよう。それから器を造り、家も造ることができよう。火がなければ、鳥獣よりもずっと劣っている」と嘆いた。
ついに彼は決心し、ジュピターに人間の惨状を訴え、火をお与えくださるようにと歎願した。ジュピターは即座に「だめだ、それは決して許さない」と拒んだ。「思ってもみよ、もし人間に火を与えたら、力も知恵もついて、われらを追い落とすようになるだろう。彼等はいつまでも寒さに震わせておこう。獣のようにしておこう。(後略)」といった。
プロミシューズは反対する言葉もない。けれども人間を助けようと思う決心は堅かった。(中略)
「さあ、これで人間は火を手に入れることができる」と叫びながら、太陽の近くに来た。朝焼けの空は晴れ、太陽はちょうど金色に光りながら昇ろうとしていた。プロミシューズはためらわず、長い葦の髄を、その炎に近づけた。たちまち火のついた髄を、芦の管に隠し、すぐにもとの国へと急ぎ帰ってきた。
プロミシューズは洞穴の中で震えていた人々に火を与えた。どのようにからだを暖め、どのように他の火を作ったらよいか教えた。暖かな風が洞穴に満ち、男も女もあの太陽よりの賜物のまわりを囲んで、口々にプロミシューズの大きな恵みに感謝した。
人々は食べ物を火で焼いて調理する方法を学んだ。暗い洞穴から明るい世界に出て来た。新しい生命の火を躍り上がって喜ぶ人々に、プロミシューズは満足し、次々とたくさんのことを教えた。
(後略)
(二)疫病憂苦の由来
(前略)
ジュピターがプロミシューズを罰するのは簡単だったが、わざとそれを急がなかった。人間に対し不幸を与えようと、世にも奇妙な、また深慮遠謀ともいうべき方法を選んだのだった。
まず鋳物の神バルカンに、一塊の土を与え、それを女の形に作らせた。(中略)
ジュピターは「さあ、おのおの好きなものを、この少女に与えよ」といい、まず生命を授けた。他の神々も、思い思いのものを与えた。(中略)
それから少女をパンドーラと名づけた。その意味は、神々よりいろいろなものをいただき、完全無欠の姫ということだった。(中略)
やがてジュピターは、翼を持つマーキュリーに姫を預け、あのプロミシューズ兄弟の所に連れて行かせた。兄弟は今もなお、人間を幸福にすることを考え続けていた。
マーキュリーは弟を呼び、
「やあエピミシューズ、ここに美しいおとめがいる。あなたの妻にと、ジュピターが贈ってくださったのです」といった。
こんなことがある前、プロミシューズは折にふれ、弟に「ジュピターの考えることは信用出来ないから、たとえどのような贈物があっても受けてはならない」と戒めていた。
しかしエピミシューズは、パンドーラを一目見ると、その愛らしさ賢さに心を奪われ、兄の戒めを忘れてしまった。姫を館に連れて行き妻としたのだった。エピミシューズとパンドーラの新しい家はこの上もなく幸福だった。兄のプロミシューズすら、この姫を見たら喜ばずにはいられなかった。
パンドーラ姫は黄金の匣を持っていた。マーキュリーについて山を下りる時、ジュピターが下さったもので、中には貴い宝がたくさん入っているとのことだった。しかし大気を司る思慮深い女神アシーナは、絶対この匣を開けてはならない、匣の中を覗いてもいけないと、姫を堅く戒めていた。(中略)
そう思うにつけ、どうしても知りたい、見たいという思いが、どんどん強くなっていった。(中略)
姫はついに「アシーナの言葉をそんなに気にしていたのは愚かなことだわ」と思った。(中略)
姫はほんの少し蓋を開けて中を覗いた。と同時に、ものがきしむような異様な響きが、匣の中に起こった。姫が驚いて蓋を閉めようとする間もなく、中から百千もの小怪物が躍り出た。怪物は蒼白い死の影を宿し、からだ全体が骨ばっていて、その浅ましい姿は今まで見たことがないようなものだった。
しばらく部屋の中を駆けまわっていた怪物やがて、隙間から一斉に外へ出ていった。それは「疫病」と「憂苦」の妖精だった。この時まで、病や心の苦しみを知らなかった人間たちの家に飛んでいった。
人々の目には見えないまま、隈なく国中を飛びまわり、這いまわり、痛み、悲しみ、死をまき散らしてしまった。
しかし、パンドーラ姫が蓋を閉めるのが、もっと遅かったら、結果はさらに悪く、このくらいでは済まなかったであろう。姫は最後の怪物が匣から出ようとした時、す早く蓋を閉めた。この怪物は名を「前知魔」(Foreboding)という。もしこの怪物が外に出てしまったら、人々は幼い時から自分の一生に起こる先々のことを詳しく知ることになってしまう。世に希望というものがなくなってしまうだろうと思われる。
これらのことはみな、ジュピターが考えたことであった。プロミシューズが人間に味方する前より、もっと悲惨な状態にしてやろうと計画したのだった。